2016年3月15日(火)
フィギュアスケートグランプリファイナル観戦記、のようなもの
昨年12月、フィギュアスケートの国際大会2015/2016 ISUグランプリファイナルを観戦する母の付き添いで、スペインのバルセロナを訪れました。
母はトップフィギュアスケーターの「絶対王者」羽生結弦選手を熱烈に応援しているのですが、絶大な人気を誇る羽生選手が出場する国内の試合やショーのチケットは競争率が異常に高く、なかなか入手することができません。そのため、海外の試合のチケットを入手することに焦点を絞り、羽生選手はグランプリファイナルに勝ちのぼることができるであろうと見込んで、グランプリシリーズも開催されていない8月にチケットと航空券・ホテルを予約して準備していました。母は外国語を話すことができないので、私も一緒に行くことになったのです。
グランプリファイナルにおける羽生選手の活躍については報道等で皆様もよくよくご存じでしょうから、(「観戦記」とか銘打っておきながら)ここでは改めて申し述べないことにします。また、ホテルと会場が徒歩10分ほどと非常に近く、そこをほぼ往復するだけで、サグラダ・ファミリアに近づきすぎて全体像が見づらかったぐらいしか観光した覚えがありませんので、「旅行記」も満足に書くことができません。
そこで、自称言語学者の私としましては、現地における言語事情について書いてみたいと思います。「現地における」といっても、ほとんど自分の事情ですが。
スペインに旅行することが決定するにあたり、スペイン語を自習することになりました。スペイン語はかつて勉強したことがあったので、すぐに習得することができると思っていたのですが、なかなか頭に入ってきません。昨年3月からの当日記の連載で、頭がドイツ語モードになっていたのです。
しかも、バルセロナはスペイン国内といいながら、少数言語カタルーニャ語圏の中心地です。言語学者としては少数言語を無視することはできませんし、私はカタルーニャ語の学習経験もあって、若干の愛着を持っています。しかし、スペイン語とカタルーニャ語のどちらを学習することを選んだとしても、出会った相手がその言語の話者ではない可能性が捨てきれません。そんなことを考えていると、ますます学習に身が入らなくなっていきます。
そこで、スペイン語やカタルーニャ語を完全に習得することは断念し、難しい会話をするのは空港とホテルぐらいであろうと決め込んで、英語で乗り切ろうと心に決めました。英語ならば会話に必要な知識は十全であると自信を持っています。普段から「英語帝国主義に反逆する」と言っておきながら、いざとなったら英語に頼ってしまうのは、私の悪い癖ですが。
そして当日、ホテルに到着し、チェックインの際に英語で情報を伝えました。若干聞きなおされることはありましたが、特に大きな支障もなく通じました。
しかし、その後も聞きなおされることが続きました。観光客に多く接しているホテルの従業員に英語の通じが思わしくないことで、自信が多少揺らぎました。
私の英語の発音が悪かったのか。あるいはよすぎたのか。スペイン語は日本語と同じく5母音体系で、英語の中間母音が聞き取りにくいので、もっと日本人っぽく発音したほうがよかったのかもしれません。
あるいは、スペインはイギリスに近いので、日本で学習されているアメリカ英語が通じにくかったのか。しかし、アメリカ英語とイギリス英語の違いが出るほどには情報量は多くなかったはずだし、そもそも日本で学習されている英語の発音はむしろイギリス英語に近いものです。
あるいは身振りを一切しなかったから通じにくかったのか。あるいは声が小さかったからなのか。もしくは無意識に下を向いていたからなのか。母が臆せず話す日本語のほうがむしろ通じているような気もしてきます。そんなことに思いを巡らせて、会話する意欲をなくしていきました。
もしも完全に通じないとなったら、スペイン語を交えるという選択を取っていたかもしれません。しかし、実際はなんとか通じていたし、会話する機会も多くはなかったので、選択を切り替える決断ができません。私自身は母の通訳であり、母の言うことを伝えることが最優先ですので、確実性を減じる方策を取るわけにはいかなかったのです。
それでも、5日目にしてようやく時差ボケが解消してきたからなのか、次第に意欲も回復してきました。帰りの空港に向かうタクシーでは、ラテン語の知識を応用して、スペイン語とカタルーニャ語が混じったような表現で行き先を伝えることができました。
次回の旅行は、2017年3月にフィンランドのヘルシンキで開催される世界フィギュアスケート選手権を観戦する予定です。今回の旅行で言葉が通じにくかったことを深く反省し、来年までフィンランド語をみっちりと勉強することを心に誓っています。
次回の更新では、フィンランド語学習の様子についてお伝えしてみたいと思います。
それでは、今回はそういうことで。
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